大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和51年(ラ)568号 決定

抗告人

第一重機株式会社

右代表者

渡辺孝之

右代理人

木村清

主文

原決定を取り消す。

静岡地方裁判所富士支部書記官が昭和五一年五月八日本件につきした執行文付与申請拒否処分を取り消す。

静岡地方裁判所富士支部書記官は、東京高等裁判所昭和四九年(ネ)第一、二九六号事件和解調書第七項について、利害関係人中村九郎に対する執行のため、被控訴人(抗告人)第一重機株式会社に、執行文を付与せよ。

理由

抗告人は主文同旨の裁判を求め、その理由は、別紙のとおりである。

記録によると、主文第三項掲記の和解調書の条項は、「五、利害関係人は被控訴人振出の手形中、利害関係人が訴外星野章吾の割引によつて使用した手形八通合計金額二八一万円につき、現在右訴外人と被控訴人間で生じている手形金請求事件およびこれに伴う不動産仮差押事件につき、昭和五〇年一一月末日までに責任をもつて解決する。六、利害関係人は被控訴人より借用割引使用した被控訴人振出のその他の約束手形一七通合計金額六四七万七、〇〇〇円につき利害関係人の責任において解決する。七、利害関係人が前二項の義務を実行しなかつたときは利害関係人は被控訴人に対し、金五〇万円の違約金を支払う。」と定められているところ、抗告人は、利害関係人が右和解条項第五項所定の義務を期限までに履行しなかつたため、同条項第七項所定の金五〇万円の違約金支払義務が生じたとして、右第七項につき利害関係人に対する強制執行のため静岡地方裁判所富士支部に執行文付与を申請したこと、これに対し同支部書記官白井敬二は、右第七項の違約金支払義務は、右和解条項第五項及び第六項の義務の双方につき不履行があつたときにはじめて生ずるものであるのに、第六項の義務不履行についてはなんらの証明がされていないこと、及び違約金支払義務発生の条件をなす第五項と第六項の各義務の内容が不確定で、右条件成就による違約金支払義務の発生を認めることができないという理由で右申請を拒否する処分をしたことが認められる。

しかしながら、本件債務名義である前記和解調書の記載条項をみると、利害関係人が訴外星野章吾から割引を受けた右事件控訴人中村清振出の約束手形に関連して右訴外人と抗告人間に訴訟事件及び仮差押事件が係属しており、これらの事件を利害関係人において昭和五〇年一一月末日までに責任をもつて解決する旨(第五項)、及び利害関係人が抗告人から借用し、割引のために使用した中村浅振出の他の約束手形一七通についても利害関係人において責任をもつて解決する旨(第六項)がそれぞれ約諾され、これらの約定による利害関係人の義務の不履行があつたときに利害関係人から抗告人に対し金五〇万円の違約金を支払う旨(第七項)が定められているのであつて、右第七項の違約金支払の約定は、第五項及び第六項の各義務の完全な履行を確保するため、その違反に対する制裁として定められたものであることが明らかである。そうすると、右第七項は、その文言上は一見第五項と第六項の双方の義務のいずれもが不履行となつた場合に関する定めのようにみえないでもないけれども、その趣旨はそうではなく、右各義務の完全な履行がなかつたとき、換言すれば各義務のいずれか一方にでも不履行があつたときは、所定の違約金支払義務が生ずるという趣旨のものであると解されるのである。そして、右第五項及び第六項で定められた利害関係人の義務は、いずれも客観的に特定された紛争事件及び約束手形につき、抗告人に負担をかけることのないよう利害関係人において責任をもつて解決するというものであつて、その内容において必ずしも不明確なものということはできず、また、第七項の違約金支払義務は、前記のように、利害関係人が第五項又は第六項の義務を履行しなかつたときにはじめて発生するという意味では条件付のものであるが、第六項の場合はともかくとして、第五項の義務履行については、昭和五〇年一一月末日までという確定履行期限が付されており、右期限経過後における右義務不履行による第七項の違約金支払義務の成否については、その成立を主張する抗告人において利害関係人が義務を履行しなかつたことを証明する責任はなく、むしろ債務者となるべき利害関係人において義務を履行した事実を立証する責任を負担すべき筋合のものであるから、右義務不履行の事実は民訴法五一八条二項にいう条件にあたらず、したがつて、抗告人は、右第五項の期限経過後は、同項所定の義務不履行の事実を証明することを要しないで、第七項の違約金支払条項について執行文の付与を求めることができるのである。(もつとも、本件においては、右第五項所定の義務不履行を証する書面も添付されている。)

右の次第であるから、抗告人の本件執行文付与申請は適法であり、これを却下した静岡地方裁判所富士支部書記官白井敬二の処分及びこれを維持した原決定には、民訴法五一六条、五一八条、五六〇条の解釈、適用を誤つた違法があるから、それぞれこれを取り消し、本件申請に対して同法五一七条により執行文を付与すべきものとし、主文のとおり決定する。

(中村治朗 蕪山厳 高木積夫)

抗告の理由〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例